天気予報は曇りだったが、雲の切れ間を縫って中秋の名月を見ることができた。
仕事帰りの車の中でそれを見る事ができたのは幸運だった。
ラジオでは月がテーマの曲が流れている。
営業職は向いてはいない。こなしてはいるが、向いてはいない。心が擦りきれていた。
「ラジオネーム、狼男さんからのリクエスト。いつも楽しく聴いています。仕事をこなすばかりの日々、ラジオが癒しです、という嬉しいお言葉ありがとうございます。リクエスト曲はエレカシの今宵の月のように。」
くだらねえと呟いて・・・いつの日か輝くだろう、今宵の月のように。
狼男は嬉しかった。リクエストがかかったのはそれが初めてだった。
大声で一緒に歌った。不意に涙が溢れて止まらない。営業職は向いてはいない。でも、こなしてはいる。
月は雲に隠れて見えなくなった。