好き、嫌いは否めない

日記に嘘を混ぜ込んで、ショートショートを書いています。

少女は卒業しない

ドラマ『不適切にも程がある』終わっちゃいましたね。 クドカン脚本で期待しすぎたかもしれないなぁ。まぁ、最後まで見ましたけど。 このドラマの主人公一朗の娘、純子役の河合優実が気になって、なんとなくサブスクで検索をしたら去年の映画『少女は卒業し…

12月19日、黒縁メガネから見える夢(1)

メガネの〇〇です。お預かりしていましたメガネの修理が完了しましたのでご都合の良い日にご来店いただければ幸いです。」女性店員はテンプレートをなぞる様に慣れた口調で早口に話した。 その電話があって3日が経った。 風邪をこじらせ、随分と仕事を休んで…

...IN HEAVEN...

僕が高校生の頃かな。うん、高校二年生。 一つ下の後輩に借りたCDがBUCK-TICK『SEVENTH HEAVEN』だった。 「ラーラララ、ララララララ」 何じゃ、こりゃ。ピコピコな電子音ワルツって。ちょっと面食らったのを覚えてる。 そして2曲目『...IN HEAVEN...』の…

失恋キリン(短編小説)

「でも、〇〇はひとみちゃんの事、好きだったんだよね。」 コロナ禍が明け、久しぶりの同窓会だった。それを主催したKが斜向かいから僕に言った。 「なんでそういうこ事になってんのよ。」僕は飲めないビールをごくりと飲んだ。 「だって、美術の時間にひと…

バスクチーズケーキと初めての日(短編小説)

右耳の奥に水が入ったのか、詰まった様な感覚がある。違和感を覚えたのはいつからだろうか。綿棒で取ろうとしても、右耳を下にして水が抜けるのを待っても、一向に水の抜ける様子はない。それがずっと続いている。首を振るとガサゴソと音がした。 「中耳炎か…

私の好きな映画の話(テオ・アンゲロプロス『永遠と一日』)

お題「好きな監督の好きな映画作品を教えて!」 www.youtube.com キューブリック『2001年宇宙の旅』で猿の投げた骨に脳天直撃を喰らい、ウディ・アレンの神経症的な会話劇に夢中になるも『ギター弾きの恋』が一番好きだったり、ラッセ・ハルストレム『マイラ…

サニタリーボックス

はぁと、私は深いため息をついた。 そして便座の右前、私の足元にサニタリーボックスがあることをその時初めて知った。 なんとか高速道路のパーキングまで、と急いでトイレに駆け込んだ。そこまでは覚えている。 もしや、此処は女子トイレではなかろうか? …

グッドルーザー

高校野球二回戦、花巻東とクラークの対戦を見ていたのだが、クラーク国際の新岡投手に目を奪われた。オーバースローからキレのあるスライダーを投げ、サイドから右打者インコースをえぐるシュートを投じ、アンダースローでタイミングを外す。プレートの幅を…

最高の睡眠(ショートショート)

眠り方を忘れた。睡眠導入剤を五錠ほど飲み込み、スイッチを切る様に眠っていたのだが、薬を常用しすぎて即効性が薄れたのか、寝ようとベッドに入っても、いろんな雑念が浮かび、なかなか眠れない。睡眠の質の悪さからか体調がすこぶる悪い。朝起きると、も…

主体的な男 -ZZ ver.-

人は常に主体的でなければいけない。 自分の身に何が起こるかではなく、それにどう反応するかが重要なのだ。 作用される側にいるのか。作用する側にいるのか、それが重要だ。 自分が主体的に変わっていくと、物の見え方も変わってくる。 外的要因を責めても…

勝手にしやがれ(ショートショート)

経年変化という魔法の言葉にからきし弱く丈夫なカウハイドか、独特の光沢を放つホースハイドか、柔らかくエレガントなシープスキンか、それぞれに袖を通し、サイズはジャストか、ワンサイズ上か、鞣しの種類は赫赫然然、鏡の前で二時間ほど迷いに迷ってホー…

たわいもない話(ショートショート)

車両側面に沿って配置された横座席には、人生に疲れたサラリーマンと、人生を謳歌する恋人たちが座っていた。 僕はその向かいに座り、窓の外を見ていた。 恋人たちのたわいもない会話だけが、やけに耳障りに思えた。 電車は徐々に加速し、窓の外の街灯は後方…

彼女(ショートショート)

「この人、誰?」 彼女は卒業アルバムの写真を指差して、そう言った。 小学校の集合写真に写るこの女、名前が思い出せない。身に覚えがない。 整った顔立ちだが、これといった特徴が無く、抽象的で、福笑いで取ってつけた様な、目があり、鼻があり、口があっ…

ノンフィクション(ショートショート)

テレビ台に収納してあった佐野元春のブルーレイディスクを探していると、不意に幼い頃の息子の映像を見つけた。 再生してみると季節はちょうど今頃、紅葉の安達太良山をロープウェイで登っている。 息子は、霧で幻想的な風景を何とか言葉にして伝えようとし…

ラストダンス(ショートショート)

まだ出来るだろう、上司は私を必死に引き止めた。私にはそれで十分だった。 昔みたいに華麗なステップを踏むことはできないけれど、上手くは踊れる。 でも、上手く立ち回って誤魔化しているだけだ。それを自分が一番わかっている。 上司はしばし考え込み、精…

ブラッドムーン(ショートショート)

昨日、ロードバイク仲間四人で亘理市の名店にはらこ飯を食べに行く往復百二十キロのグルメライドに出かけた。しかし、私以外はレースにも出ている猛者達ではないか。嫌な予感は走り始めてすぐに訪れた。 平地巡航時速三十五キロ以上、私はついて行くのがやっ…

トリックオアトリート(ショートショート)

ハッピーハロウィン! 渋谷の街を仮装した若者達が練り歩く。 トリックオアトリート。 悪戯か、お菓子か、その二択しかない。 私は書き溜めていたメモを見返す。 四年前の私はやる気に満ちていた。 まず、書く量の多さに驚いた。 何を書いているのか分かりか…

ハゲタカ(ショートショート)

「しかし、ライク・ア・ヴァージンは衝撃的だったよな。俺、ジャケ買いしたの、マドンナが初めてだったぜ。」 「デジタル録音ってのがイカしてたな。」 「ベストヒットUSA で見たプロモーションビデオは衝撃的だった。」 「俺は嫌いだね、セックスシンポルの…

リプレイ(ショートショート)

昨日の疲れか、営業車で弁当を食べた後、シートを倒し、少しだけ眠った。 携帯のアラームが鳴り、起きるとベッドの上だった。 もう少し眠ろうとスヌーズを押し浅い眠りについた、という夢を見た。 再度、アラームで現実に引き戻され、それでも眠気が消えず、…

ミイラ鳥(ショートショート)

古屋の二階に山ほど鳥籠があり、処分しようとしたのだが、金属製の物は不燃物でいいとして、木製の物は所々に針金があり、分別に難儀した。鳥籠は裕に二十もあった。 最初の頃は針金を一本一本切っていたのだが埒が明かない。 金槌で籠ごと壊し、針金を抜く…

バーバーハコスカ(ショートショート)

先月までリニューアルの為に店を閉めていた理容室に髪を切りに行ってきた。 お店の半分、いやそれ以上のスペースに三代目スカイライン、ハコスカが展示されていた。 私はハコスカに思い入れは無いのでその事に全く触れずカットをお願いした。 此処は髪を短く…

スターダストメモリー(ショートショート)

今夜だけきっと悲しいの 明日になれば忘れられるのに 不意にラジオからスタレビの曲が流れて昔の嫌な事を思い出した。 月収の良さで選んだのはマルチ商法の会社。 面接のその日に研修と言って大阪まで飛ばされた。 人通りの多い駅前で、ただで便利グッツがも…

二番目でお待ちのお客様(ショートショート)

女がレジに向かおうとした時、別の列から初老の男が割り込んで来た。 「すみません、次のお客様がいらっしゃいますので。」と店員が言い、初老の男はばつが悪そうに店を出て行った。初老の男はコンビニの並び方や、車線規制の合流、信号機のない交差点の優先…

浪漫テクノロジー(ショートショート)

テクノロジーの進化は歓迎すべき物ではあるが、電気自動車に乗っても、へぇと感心はすれど、欲しいとは全く思わなかった。 旧車には今の車に無い、浪漫があった。 昔、ミニが生産を止めると聞いて、私は二百万の車を衝動買いした。 サーフブルーの新車のエン…

ランドリー(ショートショート)

男の一人暮らしなんてそんなもんだ。 オーディオを買うお金は捻出するのに、洗濯機にまわすお金はない。 洗濯物は一週間溜め込んで火曜日の午前中にコインランドリーだった。 アパートから徒歩十分の所にサンシャインという名のコインランドリーはあった。 …

タイムアフタータイム(ショートショート)

亡くなった父の机の中から、私が使っていたジッポーライターを見つけた。 大した価値もない普通のジッポーだが、チタニウム製に惹かれ購入した思い入れのある物だった。 親指で蓋を弾いて、弾いた指でリールを回してみた。火は付かなかった。 帰路、途中のコ…

心の声が聞こえる(ショートショート)

「補聴器をつけてからホント積極的になって、元の自分を取り戻したっていうか。音だけでなく、心の声まで聞こえる様になったかも。」私はそのテレビコマーシャルを見るや否や、フリーダイヤルに注文を入れた。 補聴器は三日後に届いた。 断っておくが、私は…

名前がない(ショートショート)

ない、私の苗字の判子だけが売れ切れだ。 得意先の返品に応じる際、ここに判子を押してください、と初めて言われた。 サインじゃダメですか、と問うも前任者は普通に押してましたよ、との事。 近くの百均を白み潰しにあたるもダイソーもない、セリ◯もない、…

粗探し(ショートショート)

「君の営業車にこのカッターが残っていた。これは立派な銃刀法違反だよ。」 鑑査っていうのは粗を探してなんぼの商売、悲しいかな、これでおまんま食ってんよ。営業先で段ボール切る事位分かってはいる。でも、こっちの事情もある訳だ。 それは、一営業所に…

永遠のソール・ライター展にて(ショートショート)

ソームズ、なんて悪戯な目なの 私はソール・ライターじゃなくてよ 私の向かいには、小窓からこちらを覗き込んで微笑んでいる彼女が展示されている。 私は椅子に座って観覧者の見張りをしている。スマートフォンで写真を撮ったり、作品を直に触れぬ様に、ここ…