好き、嫌いは否めない

日記に嘘を混ぜ込んで、ショートショートを書いています。

ただ重いだけの物(ショートショート)

 

「じゃあ、流しで。」と言うなり先輩は、梱包された、ただ重いだけの物を手渡してきた。

トラックの奥の方から、ただ重いだけの物を置いて荷室いっぱいにするらしい。

先輩は、言葉は優しいが、表情で苛立っているのが分かった。

「違う、そうじゃなくってさぁ、もういいよ、逆、チェンジ。」

僕は先輩に、ただ重いだけの物を渡した。

「違う、違う、もらう方が持ちやいやすい向きに直して渡す、常識よ。」

僕は、ただ重いだけ物を先輩の持ちちやすい様に向きを変え、あるいは向きを変えずに、ただ重いだけの物を渡した。三十分ほどで作業は終わり、先輩は缶コーヒーを半分ほど飲んでタバコに火をつけ「いいか、大事なのは受け取る人の事を考えて行動する事だ。日常でもそう。受け取る側の事を考えて行動するって事よ。」

 

「あのところで、この重い物って何ですか?」

「知るかよ、ただの重いだけのものさ。生きることの意味を探そうとすると死にたくなるだけさ。知らなくていい事もあるってもんよ。」