「補聴器をつけてからホント積極的になって、元の自分を取り戻したっていうか。音だけでなく、心の声まで聞こえる様になったかも。」私はそのテレビコマーシャルを見るや否や、フリーダイヤルに注文を入れた。
補聴器は三日後に届いた。
断っておくが、私は難聴ではない。
皆の、心の声が聞きたかったのだ。
装着感は悪くない。多少の圧迫感はあるし外音は聞こえにくくなるが、電源を入れれば至って普通に聞こえる。むしろはっきりと声が聞きとれる。そして、何事にも積極的になって、元の自分を取り戻した。
早朝からランニングをしながらゴミを拾うプロギングなるものも始めた。奉仕活動だ。
「おはよう。」「おはようございます。」
小学生の集団登校だ。元気に挨拶する。
『変質者だ、早く逃げろ。』
心の声は残酷で、防犯ブザーはもっと残酷だ。