まだ出来るだろう、上司は私を必死に引き止めた。私にはそれで十分だった。
昔みたいに華麗なステップを踏むことはできないけれど、上手くは踊れる。
でも、上手く立ち回って誤魔化しているだけだ。それを自分が一番わかっている。
上司はしばし考え込み、精一杯の笑顔で
「ラストダンスだ。自分の限界まで戦ってこい。」そう言って私を送り出してくれた。
何時の日からか、勝つか、負けるかの世界で戦ってきた。やり残した事など何もない。
しかし、引き継ぎはどうする?対峙する相手の傾向や癖は私の体が覚えている。
それを後任に落とし込む時間はないという事か?
ロッカールームで、後任の若者は言った。
「あなたの背中をずっと見てきた。あなたは私の羨望であり、羅針盤だった。
最後のラストダンス、この目に焼き付けます。」
私は彼にウインクを投げ、靴紐を結んだ。