好き、嫌いは否めない

日記に嘘を混ぜ込んで、ショートショートを書いています。

ブラッドムーン(ショートショート)

昨日、ロードバイク仲間四人で亘理市の名店にはらこ飯を食べに行く往復百二十キロのグルメライドに出かけた。しかし、私以外はレースにも出ている猛者達ではないか。嫌な予感は走り始めてすぐに訪れた。

平地巡航時速三十五キロ以上、私はついて行くのがやっとだった。

昼時、はらこ飯にあり着いたが既に疲労困憊で味わう余裕は無かった。帰路、カフェに寄り、チーズケーキで糖分補充し、強い雨による小休憩も挟んだが、残り三十キロで脚が売り切れ、ペダルを踏めなくなった。

 

力無くペダルを回し続け、日は暮れ、川辺では皆既月食と惑星食を撮る写真家達が一様に三脚をセットし、望遠レンズを取り付け、露出を合わせ、四百四十二年ぶりの、その時を待っていた。

不気味な赤黒さを帯び、それは私達の頭上で不吉な予兆を示していたのも知らずに。

 

月が血に帰る頃、私は終着点に辿り着いた。口の中で鉄の味がした。