車両側面に沿って配置された横座席には、人生に疲れたサラリーマンと、人生を謳歌する恋人たちが座っていた。
僕はその向かいに座り、窓の外を見ていた。
恋人たちのたわいもない会話だけが、やけに耳障りに思えた。
電車は徐々に加速し、窓の外の街灯は後方に流されていった。
次の駅に着くと恋人たちは電車を降り、入れ違いで紺のスーツを身に纏った美しい女性が(こんなに席が空いているのに)何故か僕の隣に座った。サラリーマンの視線を感じた。僕は気にかけない振りをして、流れていく街灯を追いかけていた。
すると女性は、私の肩に頭を乗せ寝てしまった。
オーデコロンのいい香りがする。僕の体は硬直し、状況が飲み込めずにいた。
次の駅に着くと美しい女性は、何もなかったかの様に電車を降りていった。
オーデコロンの香りを残して。
サラリーマンは眠りにつき、僕は眠れず街灯を追いかけていた。