好き、嫌いは否めない

日記に嘘を混ぜ込んで、ショートショートを書いています。

彼女(ショートショート)

「この人、誰?」

彼女は卒業アルバムの写真を指差して、そう言った。

 

小学校の集合写真に写るこの女、名前が思い出せない。身に覚えがない。

整った顔立ちだが、これといった特徴が無く、抽象的で、福笑いで取ってつけた様な、目があり、鼻があり、口があった。ただ不自然さだけが際立ち、子供らしさのかけらも無い、作り込まれた完全な笑顔であり、可愛げのない郵便局の窓口の様な笑顔だった。

野口英世を先生って言って尊敬してた人じゃない?猪苗代町から転校してきた人。」

教科書に載っている野口英世の写真は覚えているが、やはりこの女の事は何一つ思い出せない。

 

不思議に思い、彼女の方を見やる。

知らない顔が覗き込む様に私を見ていた。

「この人、誰?」

彼女は卒業アルバムの中の私を指差して、そう言った。