ソームズ、なんて悪戯な目なの
私はソール・ライターじゃなくてよ
私の向かいには、小窓からこちらを覗き込んで微笑んでいる彼女が展示されている。
私は椅子に座って観覧者の見張りをしている。スマートフォンで写真を撮ったり、作品を直に触れぬ様に、ここに座って監視をしている。平日なのに沢山の人が美術館を訪れていた。ソール・ライター展は若い観覧者も多く、その一部ではあるがマナーを守れない者もいる。それを注意するのが私の役目だ。
その時、携帯電話の着信音が館内に鳴り響いた。その音先には、中年の男が驚いた様子で、しかし、電話には出て、小声で話している。「はい、了解です、今すぐ戻ります。」
観覧者、皆の冷たい視線が男に集まる。
ソームズは私と目を合わせ、呆れたように微笑んだ。私はその男をやり過ごした。